この記事は『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』についての書評です。
『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』は、ジュリア・ケラーさんの著書。
2023年に日経BPから出版されました。
努力や継続が重要視される現代で、その常識を真っ向から打ち壊しにかかった書籍です。
- 努力や継続することに疲れている方
- 途中で諦めたことで批判された経験のある方
- 辞めたいことがあるけれど、周囲の目が気になって二の足を踏んでいる方
本記事が、良書との素敵な出会いのきっかけになれば幸いです。
本の簡単な紹介
ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト兼小説家のジュリア・ケラーさんの著書。
世間一般に蔓延している「やめること」のネガティブなイメージを払拭し、「やめるからこそ動物は生き残ることができる」という法則を解説した本です。
動物や昆虫が「やめる」ことで生き残ってきた話や、スポーツ選手が意識的に「やめる」ことで自身の選手生命を守った話など、身近な話題から「やめる」ことの効能を教えてくれます。
「やめること」「諦めること」にどこか申し訳なさを感じている人に、ぜひ一読いただきたい本です。
この本を読んだ理由
前職でメンタルを病んで退職しました。
そのときは仕事を離れることしか頭になかったのですが、少し落ち着いてきた頃に、果たして「辞めたこと」は正しい決断だったのだろうか、と不安を感じたのです。
メンタルを病んで退職した人への世間の当たりも、まだまだ厳しいものがある気がしており、第三者の意見を見るのが怖くて、SNSからは自然と距離をとるようになりました。
しかし、生きていくためには働かなくてはなりません。
時間が経って、少しずつ回復してきたということもあり、何か私と同じような経歴の人はいないか、「やめたこと」をポジティブに受け止めることができる本はないか、と探していたときに、本書と出会いました。
本書をチラ見したところ、本書の著者であるジュリア・ケラーさんも、周囲の環境に馴染めずにやめた経験があるとのこと。
少し私と似たところがあるのかもしれないと感じ、本書の購入を決めました。
印象に残った箇所
印象に残った箇所がいくつかありますので、今回はその中から、私の学びになった箇所を2つご紹介します。
完全にやめるのではなく、半分やめてみる(「半やめ」のすすめ)
本書は「やめること」のポジティブな側面をご紹介している本ですが、とはいえ、いきなりやめるのって難しいですよね。
すぐにやめることができれば、そもそもこの記事に辿り着いていないと思いますし、私自身もこの本を探すこともなかったでしょう。
そんな私たちのことを考慮し、著者のジュリア・ケラーさんは、まずは「半やめ(セミ・クイット)」をしてみることをお勧めしています。
「半やめ」とは、文字通り、「半分やめてみること」。
つまり、一時的にやめてみる、ということですね。
ベンジャミン・フランクリンは、「一度仕事を辞めて、ちょっと時間をおいてから再び復帰する」という一時的な方向転換を何度も経験したそうです。
フロリダ州立大学で米国史を教えているエドワード・グレイさんによると、「フランクリンは、物事の本質を理解するのが極めて速かった。いつも同時にたくさんのことをしていた」とのこと。
つまり、フランクリンは、世の中の仕組みに尽きることのない興味を持ち、次々と新しいことに飛び付いては昨日までの執着を捨てて、そのとき関心のあることに没頭することを繰り返していたそうなのです。
気になることを見つけたら試してみて、また別のことが気になったら、今やっていることを「半やめ」し、別のことを試すわけですね。
著者のジュリア・ケラーさんは、「いったん半やめする」ことがフランクリンの戦略だった、と述べています。
確かに、色々試してみれば、自分の適性や興味の有無もわかりますし、自分自身をより深く理解することにも繋がりそうです。
私も「半やめ」のテクニックを取り入れてみようと思います。
やめるべきか悩んだときに試して欲しい問いかけの言葉
「ハムレット」の有名な以下のセリフ。
To be or not to be that is the question
「ハムレット」
日本では「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」という訳が有名ですが、小田島雄志訳の『ハムレット』では「このままでいいのか,いけないのか,それが問題だ」となっています。
仕事も同じです。
私も仕事でメンタルを崩したとき、「このまま残るべきか、それとも辞めるべきか、それが問題なんだよね……」といつも考えていました。
著者のジュリア・ケラーさんは、こういった悩みに苦しんでいるときには、こう自問して欲しい、と仰っています。
「私は、自分自身の考えに基づいて判断しようとしてるのか?やめたら周りから白い目で見られるかもしれないことを恐れているだけじゃないのか?自分が本当に望んでいることを選んでいるのか?それとも誰かの考えに従おうとしているだけなのか?」
ジュリア・ケラー『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』日経BP、2023年
それからもう一つ。
「もし、誰かに根性なしと呼ばれたとして、それで何か不都合はあるんだろうか?」
ジュリア・ケラー『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』日経BP、2023年
私も経験がありますが、「やめること」を相談しようとすると、大抵の場合は引き止められます。
「ここで辞めたらどの会社でも通用しないぞ」とか、「そんなんで世間様に胸を張って生きていけるのか!」とか。
今思うと意味が分かりませんが、当時の私はメンタルがボロボロだったので、「上司の言うこともその通りかも……」と洗脳されていたのです。
自分で判断ができていなかったんですね。
幸い、私の場合は母や妹が親身になってアドバイスしてくれたので、なんとか辞める決断をすることができました。
冷静に振り返ってみると、私はきっと「やめること」で誰かに白い目で見られたり、「根性なし」のレッテルを貼られることを恐れていたのかもしれません。
ですが、今では「やめたこと」をまったく後悔せずに元気に生きています。
実際やめてみると、すごくスッキリしますし、その後のことも意外となんとかなるものです。
傷病手当金や失業手当などに助けてもらいながら、ゆっくり静養することができたからですね。
もしもあなたが、今まさに「やめること」で悩んでいるのであれば、ぜひ本書の言葉を自問してみてください。
自分の本心で決断したことであれば、休職でも退職でも残留でも、どのような決断でも後々納得して行動できると思います。
感じたこと・考えたこと
「やめること」のポジティブな側面にフォーカスした本でした。
著者を含む多くの一般人へのインタビューに基づいた「やめてよかったこと」のストーリーが豊富で、「途中でやめたことのある人は私だけじゃなかったんだ」という気持ちにしてくれました。
むしろ、割合的には「やめたことで成功した人のエピソード集」といっても良いかもしれません。
表紙にあるように、最新科学の研究結果も載ってはいたのですが、どれもまだ可能性段階の研究が多かったのが少し気になりました。
脳の構造は複雑なため仕方がないとは思うのですが、結局のところ、科学的な「やめどき」がイマイチよく分からなかったので、より詳細なエビデンスが欲しかったところ。
ただ、「やめること」を「方向転換」と言い換える話は、前向きな言い換えでいいなと思いました。
関ヶ原の戦いで有名な「島津の退き口」(島津軍による退却戦のこと)では、後退するのではなく、前進からの敵中突破で見事に退却に成功しています。
これも一つの「(戦いを)やめること」の形であり、まさに「方向転換」だよね、とふと思いました。
総じて、科学的に正しい「やめどき」を知りたい人には不向きですが、「今何かをやめようか悩んでいる人」には、本書に載っている人たちのエピソードが勇気を与えてくれるかもしれません。
少なくとも、私自身は「やめたい人・やめてる人は私だけじゃない」という気持ちになることができました。
まとめ
この記事では、ジュリア・ケラーさんの著書である『QUITTING やめる力 最良の人生戦略』の概要と感想をご紹介しました。
「やめること」には大きな勇気が必要です。
やめた人への世間的な偏見が強いこともわかっているので、余計に精神的負担になり、なかなかやめられない状態が続くこともあるかもしれません。
ですが、あなたの健康は何物にも変え難いものです。
そして、あなたの健康は誰も守ってくれません。
最後に頼りにできるのは自分自身だけなのです。
もしも辞めることに大きな不安を感じているのであれば、少し休職をしてみるのも良いと思います。
辛いときに一番大事なのは、自分を労ってあげることです。
ぜひ、ご自身の健康を大切にしてあげてくださいませ。